HAGANE SIGNAL
雨の窓辺の工房で、カイとレン、小さなボットのココが祖父のカートを整備している。

A science fiction novel by Thiago Sano

HAGANESIGNAL

ハガネシグナル

その先へ。
帰る道を、残しながら。

雨の町の、小さな工房から。
誰かの仕事が、次の一歩を支えていく。

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01 Films

A glimpse beyond.映像で、物語の向こうへ。

町の灯り。機体の重さ。誰かを待つ時間。
HAGANE SIGNALの世界を、映像で。

HAGANE SIGNAL — CM

2026年10月26日制作

00:36

次の映像も、制作中。

新しい映像は、完成したものからこの場所へ。

映像の余韻を、物語へ。雨の町の小さな工房から、旅が始まります。

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02 Story

まだ知らない場所へ。
帰ってくる人のために。

雨の町、カッパーベル。
祖父の工房と古いカートを受け継いだカイの隣には、親友のレンと、小さな相棒ココがいる。

速さを競う日も、嵐の夜に荷を届ける日も。
大切なのは、無事に帰ることだった。

町の外へ伸びる道。その先で見つかったのは、継ぎ目のない巨大な門。まだ誰も知らない場所へ、彼らの仕事は続いていく。

そして、およそ三百年後。
操縦士ナギと相棒ハガネ、救援と試験に携わるセラ。残された記録と、今を生きる人々の選択が、二つの世界を結び直していく。

走る者。直す者。記録を残す者。
誰かの仕事が、次の一歩を支えていく。


「最初の賞金で屋根を直す」カイ / 第一章
「先にブレーキだ」レン / 第一章
雨の窓辺の工房で、カイとレン、小さなボットのココが祖父のカートを整備している。
THE WORKSHOP / COPPERBELL

03 World

A world at work.暮らしと仕事が、世界をつくる。

01雨の町、カッパーベル

降る雨は、屋根や金属を傷める。人々は空気と水の設備を手入れし、壊れた道具を直しながら暮らしている。ハガネ工房は、その町の一角にある。

02走ることと、帰ること

車輪で走るカート。人が操縦する、脚を備えたフレーム。競技でも仕事でも、速さだけでなく、止まり方や荷の固定が問われる。

03門と、二つの世界

町の外に残る、巨大な門。人や車が往来する道の先にも、水を届け、機械を守り、日々を続ける人々がいる。そのつながりは、誰かの仕事に支えられている。

この世界で、暮らす人々。走る人、直す人。その道をつないでいく相棒たち。

04 Characters

Those who carry on.その道を、つないでいく人々。

同じ町で、ともに過ごす日々。
三百年を隔てて、続いていく仕事。

横に動かすと、次の人物へ。
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走る人

カイKAI

祖父のカートとハガネ工房を受け継いだ青年。まず走ってみようとする。その隣には、レンとココがいる。

直す人

レンREN

カイの親友で、整備を担う。よい数字が出ても、荷が無事かを見に行く。失敗した場所も帳面から消さない。

二人の小さな相棒

ココCOCO

丸い胴と二本の細い腕を持つ、小さなボット。荷の揺れや道の変化を伝えながら、自分も試走に参加する一人である。

彼らに、物語の中で出会う。第一章を、このページでお読みいただけます。

HAGANE SIGNAL、Thiago Sano著。現在稿の表紙。

05 Read the novel

HAGANE SIGNAL

A NOVEL BY THIAGO SANO

三つの雨音が聞こえる
工房へ。

屋根を打つ雨。工具が触れ合う音。
そして、道の向こうから近づいてくる車の音。
物語は、そんな場所から始まります。

第一章は、このページでお読みいただけます。

誰かの仕事が、
次の一歩を支えていく。

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HAGANE SIGNAL / CHAPTER 01

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第一章三つの雨音とブレーキ

カッパーベルの夕方は、工場の交代を告げる長い笛で始まる。

東の丘に並んだ煙突の根元から、低い音が街の底を這ってくる。朝と夕方に一度ずつ鳴るその笛を、この街の人は壁の時計より信じていた。笛が鳴ると炉の番が替わり、油の染みた作業着の列が坂を下りてくる。通りの角ごとに、環境設備の保守灯が橙色だいだいいろを一つずつ増やしていく時刻だった。

その音を追い越すように、今日は短いクラクションが二回聞こえた。市場の店主が、量りかけの豆を皿に残したまま外を見る。路地の水場で工具を洗っていたボットが、ブラシを握った手を止める。カイには、軒先の受像機から流れるレース中継の実況が、ほんの一瞬、遠くなったように聞こえた。

帰還きかん車が戻ったのだ。

外周路の向こうへ出ていった車は、街へ入る手前で必ずそう鳴らす。短く二回。無事に帰った、という意味のほかには何も含まない音だった。それでも、その音を聞いたあとの街は、少しだけゆっくり動く。

店主は皿の豆を量り直し、ボットはまたブラシを動かし、実況はもう一度、先頭を走る機体の名を叫んだ。

その向こう、町でいちばん古い丘に、針の合わない大時計が立っていた。毎日の時刻を示す小さな環の外に、もう一つ、遠い日付を指す環がある。誰が作ったのかも、何を待つのかも、カイの学校では教えなかった。

時計番の年寄りたちは、その日付を「道を返す時」と呼んだ。朝には塔の下の水桶を洗い、使った水の量と、見回りをした者の名を残す。祖父も、生きていた頃はそこへ油を届けていた。古い申し合わせには、土地を使う量と、回復を待つ時間を一緒に数える、とある。市場の若い者は、休ませるなら自分の工場の方が先だ、と笑った。

それでも時計が止まれば、笑った者も歯車を運んだ。水場の掃除が済むまで、店を開けない人もいた。カイは祖父の代わりの油を、まだ届けられていなかった。

カイは閉じた透明な仕切り越しに、洗い場の屋根の穴から空を見上げていた。穴は、両手を広げたくらいの大きさだった。錆さびた波板の縁がめくれ、その向こうを、雲とも煙ともつかない灰色が流れていく。

朝にやんだ雨が、夕方になってまた降り始めていた。仕切りの向こうの洗い場には、鉄を舐めたような酸っぱいにおいがこもっていた。作業側へ入った時に鼻に残ったにおいを、カイはまだ覚えている。この街の雨は、放っておけば屋根を食う。

通りの歩く側には透明な覆いが続き、その下へ環境設備が空気を送っていた。風の強い日は、店と店を結ぶ仕切りも閉じる。覆いを外れれば、雨がやんでいても面体と濾過ろか器が要る。外壁の向こうでは、その空気まで車に積んで行かなければならなかった。

洗い場の土間には雨漏りを受ける桶が三つ置いてあった。一つは洗い桶、一つは塗料の空き缶、もう一つは底に布を詰めた古いバケツで、どれも半分ほど水が溜まっている。レンが天井から床まで閉じた透明な仕切りと、排水口の中和材が、雨の入る土間を作業台から隔てていた。清浄な側には別の送風口がある。落ちてくる滴の高さがそれぞれ違うので、三つの桶は三つの音で鳴った。仕切りを挟んだ隣の乾いた床に、祖父の古いカートがある。

防水布をめくると、細い車体の塗装はところどころ剥はげ、座席の革は乾いて割れていた。けれど車軸しゃじくは真っ直ぐで、手で回せば車輪は軽く回る。祖父が最後まで手を入れ続けた車だった。座席とココの台を一緒に覆う透明な屋根には、細かな擦り傷がある。屋根は車体に付いたままで、乗り降りには横のハッチを開けた。

カイは車体の専用フックから、クリーム色のフルフェイス型ヘルメットを取った。顎紐を締め、低い座席へ滑り込む。前へ足を伸ばしてペダルを踏むと、レンが車輪のそばでうなずいた。閉じた透明なバイザーと風防の向こうに、その顔が重なって見えた。点検が済むとハッチを開けて降り、ヘルメットをすぐ横のフックへ掛けた。

カイは子どもの頃、この座席の横に立って、祖父がボルトを締める順番を数えていたことがある。一、二、三。最後の一本だけは、祖父はいつも締める前に一度、手を止めた。

受け継いだガレージの看板には、かすれた文字で「ハガネ工房」と書かれていた。入口の上に打ちつけられた鉄板の、半分は錆さびに食われている。それでも読めた。読める限り、ここはまだ工房だとカイは思っていた。

レンは点検を終えると、工具箱を持って入口へ戻った。戸の留め具を直し、看板の下に残った水を払う。

「最初の賞金で屋根を直す」

カイが言うと、入口に立っていた親友のレンは、肩に提げていた工具箱を床へ置いた。重い音が床を伝わり、仕切りの向こうの桶の水面が揺れた。

「先にブレーキだ」

「走らなきゃ、賞金もない」

「止まれなきゃ、屋根も要らなくなる」

レンはそう言った時には、もうカートの前にしゃがんでいた。ブレーキの踏み板を指で押し、戻りの遅さを確かめる。眉一つ動かさないのに、指先はやけに丁寧だった。昔からそうだ。カイが走り出す前に、レンはもう止まり方を考えている。

「雨の日に走ったら、屋根より先に俺たちが濡れるぞ」とカイは言ってみた。

「外套は濡れても、中を濡らさずに帰るんだ。止まれなかったら帰れない」

レンは顔も上げずに、踏み板の付け根へ油を一滴落とした。

小さな相棒ボットのココが、二人の間で首を振った。丸い胴に、細い腕が二本。小さな車体には、警告と帰還を知らせるクラクションが付いている。ココは首を左右に振り、それからカートの座席の横、自分のための台座をこつんと叩いた。自分のカートなのだから、自分にも相談してほしいという顔だった。

「わかったよ」とカイは笑って、ココの丸い頭に手を置いた。「ココは何から直したい」

ココはしばらく考えるふりをしてから、屋根の穴を指し、それからブレーキを指し、最後に自分の台座を指した。

「全部か」

「全部だね」とココが言った。小さな、少しかすれた声だった。

「注文の多い相棒だな」

「カイも、さっき二つ言った。屋根と賞金」

「賞金は注文じゃなくて、予定」

「まだ取ってない予定で、部品は買えないぞ」

ようやくレンが顔を上げた。カイは言い返そうとして、笑ってしまった。さっきまで入口に立っていたレンが、当たり前のように床へ工具を広げている。昨日まで、ここへ来る人は、祖父の残した品を引き取りに来る人ばかりだった。今日は誰も、何かを持って出ていこうとしていなかった。

最初の工具を置いた時、床板ゆかいたが短く鳴った。祖父も、同じところへ工具を置いていた。カイはその音を覚えているのに、次にどの工具を渡していたのかは、もう思い出せなかった。

「これ、どっちから外す」

知らないことを口にすると、看板まで借り物になる気がした。レンは二つ並んだ留め金のうち、汚れの薄い方を指した。

「こっち。外した順に置いとけ。戻す時に困る」

カイはうなずいた。祖父と同じようにできる、と言わずに済んだことに、少しほっとした。ココが部品を置く場所を空ける。今度は、次の一本をどこへ置くか、三人とも知っていた。

カイは仕切りの手前に置いた、空の回収桶の取っ手を持ち上げた。雨漏り側の桶を扱うには、面体と外套を着けて洗い場へ回らなければならない。

「じゃあ、俺が排水を見てくる。着替えてくるから、ブレーキ、頼む」

「その前に、どこが悪いか見ていけ」

レンは床を二度叩き、自分の隣を空けた。ココが早速そちらへ台座を寄せる。カイはバケツを置き、レンの隣へ膝ひざをついた。三つの桶が、三つの音で鳴り続けていた。

第一章 終わり